食と農のプログラムDAY2は、「酪農とヨーグルト」をテーマに10月15日に開催しました。 小美玉市は生乳生産量が茨城県内で1位の酪農のまち。全国初の「乳製品による乾杯を推進する条例」が制定され、ヨーグルトや牛乳での乾杯が推奨されている小美玉市では、牛や乳製品は身近な存在です。2018年には全国初となるヨーグルトサミットを開催しました。
第1回全国ヨーグルサミットin小美玉 https://www.city.omitama.lg.jp/omitama/index.html
今回は、小美玉市で市内産の生乳からヨーグルトやアイスクリームを生産している「小美玉ふるさと食品公社」、市内で乳牛などを育てる「保田農場」での現地フィールドワークの様子をお届けします。
待望の現地開催となったDAY2。羽鳥駅に集合した一行が向かった先は「空のえき そ・ら・ら(以下そ・ら・ら)」。茨城県の玄関口「茨城空港」のすぐ近くにある直売所や飲食店、イベント広場がある施設です。
小美玉ふるさと食品公社(以下食品公社)は、このそ・ら・らの敷地内に、乳製品の工場と、ソフトクリームやヨーグルトを購入できるヨーグルトハウスを構えています。
今日お話を聞かせてくれたのは、工場長の木村智信さん。
ヨーグルトBARと題して、オリジナルヨーグルトパフェづくりのワークショップを準備し待っていてくれました。参加者は会場に到着したあと、早速、用意されたBARで、小美玉産生乳のヨーグルトや工場長特製のプリンやカスタード、季節の果物などを思いおもいにカップに盛り付け、「オリジナルパフェ」を作成。完成したパフェを頬張りながら、小美玉ふるさと食品公社のお話を伺いました。
現在、毎日1tほどの生乳が工場に運ばれ、ヨーグルトやアイスクリーム、プリンなどに加工をしている食品公社。生乳はすべて、小美玉市内産のものなのだそう。生産に必要な全ての量を市内産で賄える事実からも、小美玉市の酪農の規模の大きさが垣間見られます。
今でこそ、乳製品のまち・小美玉を牽引する存在となった食品公社ですが、実は数年前までは「ヨーグルト」について、市民からもあまり認識されていない存在だったのだとか。
「食品公社で働きはじめた理由も、仕事を続けられた理由も自宅が近かったから」と笑って話す木村さんですが、そんな現状の中で工場長に就任。営業担当者と共に立ち上がり、自ら県内外への営業活動も開始したそう。
商品PRに加えて、独自商品の開発や、品質の高さを生かした市内外の企業のオリジナルアイスクリームなどの開発・生産も行いました。営業活動や開発の成果が身を結び、現在までに世に送り出したアイスクリームは、なんと250種以上。少しずつ認知度もファンも増やして現在に至ります。
さらに木村さんは、2018年に開催された「第1回全国ヨーグルトサミットinおみたま」がきっかけで小美玉の乳製品に対する潮目が変わったと感じたのだそう。小美玉市からの突然のサミット開催の持ちかけに、当初は驚きを隠せなかったという木村さんですが、市民の有志メンバーと協働でヨーグルトサミットの企画や運営をすすめるなかで、着実に手応えを感じたのだと言います。
ヨーグルトサミットで得たつながりは、今でもかわらず続き、小美玉市のヨーグルトは、現在では市内や県内に限らず全国にファンがいる存在となっています。
参加者からは「製法で味や食感が変わると知って驚いたので、木村さんたちが開発したヨーグルトを食べ比べしてみたい」「とても美味しいので通販でお取り寄せしたい」との感想があがりました。
小美玉ふるさと食品公社
https://www.omitamayogurt.jp/
ランチを挟んで向かったのは、株式会社保田農場。お話を聞かせてくれたのは3代目を継いだ保田知紀さんです。
現在約300頭の牛を飼育している保田農場ですが、農場の牛は、すべて牛乳や加工して乳製品となるミルクを出すホルスタイン。保田さんは、日々牛舎で生まれる仔牛の世話から、餌の管理、成牛からの搾乳を行っています。
農場を継いで以降、保田さんが心がけていることは牛にストレスを与えない飼育方法であること。
「牛を狭い仕切りに繋ぐことはせず、牛舎の中を牛が自由に動き回ることができるようにしています」と保田さん。近年、農林水産省の示した「アニマルウェルフェア」の指針に注目が集まっていますが、保田農場のこの方針は、それ以前から独自に行っていたというから驚きです。普段聞く機会のない牛の飼育方法のお話に参加者は興味津々で耳を傾けます。
乳脂肪分、無脂乳固形分*の比率が高い小美玉の生乳。実は牛の出す乳の風味や乳脂肪率は牛の体調や季節でも変化するのだと言います。
そのため、牛に与える餌は保田さん自ら、牛のコンディションをみて配合を変えているのだそう。
「牧草の他に、とうもろこしなどの穀物、ビーツなどを配合して餌を調整しています。配合によっては、牛の体調が悪くなってしまったり、牛乳の味が落ちてしまうんです」
牛の適切な飼育にはITも活用。仔牛の首につけた首輪のセンサーで授乳量を管理し、1日に与える適切な栄養分に基づいたミルクの量を与えるなどのシステムも採用しています。
※無脂乳固形分:牛乳から水分を除いた全栄養成分を「乳固形分」と言います。そこからさらに乳脂肪分を除いたものが「無脂乳固形分」で、たんぱく質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどの成分が含まれています。
出荷する生乳の高い品質保持や牛の健康のため、細かな対応と、時に最新の技術も取り入れながら、酪農に取り組む保田さん。しかし、牛との向き合い方や酪農のあり方は日々模索の途中なのだと言います。
「例えば乳牛としての役目を終えた牛を廃牛せず、山で放牧して育て『美味しいお肉』として最後まで責任をもって向き合っている酪農家も存在します。ただ、そこには牛を放牧できる環境づくりや、適切に調理し消費者へ届けるルートの確保や技術などの高いハードルがあり、誰にでもできることではありません」
保田農園のアニマルウェルフェアへの取り組みは、ガイドラインに対して十分対応がなされているものの、さらに「フェアな接し方」があるのも事実であり、酪農を事業とする上でのジレンマがある、と正直な胸の内も語ります。
真摯に酪農に向き合う保田さんの姿に、参加者からは「保田さんの育てる牛の牛乳が飲んでみたい」との声も上がりました。
残念ながら、牛乳は複数の酪農家の生乳をあわせて殺菌処理と容器への充填を行っているため、現状、保田農場の牛乳だけを飲むことはできないのだそう。
少し落胆する一同でしたが、保田さんは、生協で販売している「酪農家の牛乳」は保田農場の生乳が使用されている商品のひとつだと教えてくれました。