2022.03.09 UP
おみたまくらし 「食と農のプログラム」を開催しました −DAY1 農を感じる暮らし−

食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」と小美玉市による 「おみたまくらし食と農のプログラム」を開催しました。 温暖な気候に広大な土地を有する茨城県は、農産物の有数の生産地としても知られています。そんな茨城県のほぼ中央に位置する小美玉市もまた、豊かな食と農の宝庫です。

「おみたまくらし食と農のプログラム」は、小美玉市をフィールドに、食と農のプロフェッショナル達から直接お話しを伺う学びのプログラム。 foodskoleによる、深い学びを得るための「視点」のレクチャーや、「案内人」として参加する小美玉市に暮らす住民達の声も聴きながら、生産地としての茨城県の特徴や食を身近に感じる暮らし方、「小美玉で暮らすこと」の可能性について考えました。

全3日間のプログラムの様子をレポートします。

9月11日のDAY1は、「農を感じる暮らし」をテーマに開催。緊急事態宣言下での開催となり、急遽オンラインで現地とカメラを繋いでのプログラムとなりましたが、結果的に県内外から沢山の方に参加いただける機会となりました。Zoom上ではありますが、県外、市内を問わず参加者同士が会話やコメント欄でのやりとりを楽しみました。

プログラムでは、誰でも畑を持つことができる市民農園や、今まさに旬を迎える梨の農家、地元産食材を使用する製菓店を訪れて、現場の生の声を聞きながら豊かな農と食がある暮らしを体感。時に食や農を仕事にすることの厳しさや難しさについて考えるシーンもありました。今回は「小美玉市美野里シビック・ガーデン」「皆藤梨園」「アトリエ プティ・ボア」でのお話をお届けします。

小美玉市美野里シビック・ガーデン

シビック・ガーデンのそれぞれの区画の中は自由にカスタマイズ可能。畝の作り方や作物のセレクトに個性がでる。

最初に向かった先は「小美玉市美野里シビック・ガーデン(以下シビックガーデン)」。スタッフのみなさんが迎えてくれました。

シビックガーデンの敷地内にある225区画のスペースは、1区画(30m2)からレンタルが可能な畑です。もちろん市外の方の利用も可能で、現在は県外からの利用者もいるのだとか。最近では大学生の区画利用者もいるそう。

シビックガーデンの特徴は、なんと言っても栽培指導員によるアドバイスが受けられること。土の耕し方や堆肥の入れ方、肥料の選び方などをいちから丁寧に指導してもらえるので、初心者でも安心してはじめることができます。もちろん農機具のレンタルもあり、土を耕すのに必要な耕運機は200円で貸してもらえるそう。追加料金を払えば耕してもらうことも出来ます。

隣接の直売所でタネや苗を購入でき、必要な道具はレンタル可能との情報に、参加者からは「県外から手ぶらで、週末に通えそう」「指導員さんが見てくれているなら安心して野菜が育てられる」とのコメントが寄せられました。

ベテラン指導員さんたちのアドバイスは、週末も受けられる。

現場から質問に答えて頂いた栽培指導員の酒川さんからは「農業は、10年の経験でも短いと感じるくらいの難しさがあるもの」とのお話もあり、作物を育てることの厳しさや奥深さを実感する参加者一同ですが、「買ったものと自分が作ったものを食べ比べると、味の違いがわかるはず」と続く言葉に、自分で野菜を育ててこそ得られる楽しみも知り、自分の畑を持つことの可能性や夢を思い描く時間にもなりました。

小美玉市美野里シビック・ガーデン(小美玉農林公社HP)
https://omitama-agri.jimdosite.com

皆藤梨園

梨の種類は、幸水・豊水など誰もが聞いたことがある品種のほか、新高やにっこりなど珍しい種類のものも。この日はあきづきが最盛期を迎えていた。

続いてカメラが向かった先は、皆藤梨園

「今年の幸水と豊水の全ての収穫がちょうど今日の午前中で終わったところ。これから、あきづきが収穫時期を迎えます」とお話ししてくれたのは、梨園で作業中の園主・皆藤純一さんです。

以前はサラリーマンとして働いていた皆藤さんは、30歳の時に皆藤梨園の2代目として就農した経歴を持ちます。

4500坪の園内には、約500本の梨の木が並びます。一本の木からおよそ300〜500ほど実をつける梨の収穫を、旬である8月〜9月の2ヶ月の間に、1代目のお父様とこなします。

「梨の収穫自体は9月いっぱいで終わりますが、その後にもネットの片付けや枝の剪定、春に花が咲くと受粉作業や摘花などの仕事が続き、あっという間にまた収穫の夏がやってきます」と皆藤さん。収穫までの間に手間や時間をかけて梨の管理をしていることが伺えます。

近年、気候の変化が梨の生育に与える影響を肌で感じているという皆藤さん。 「就農したころと比べると開花が1週間ほど早くなっています。遅霜に遭うリスクが高くなっている」開花時期に霜に遭うと受粉出来ずに実がつかなくなってしまうのだそうです。 「果樹は野菜のように、追加で種を撒くことが出来ないのでワンシーズン分全てダメになってしまうのが厳しいところですね」と語ります。

梨の棚は低く作ってあるため、園内は腰をかがめて移動する
花が咲くシーズンには受粉作業を行うが、梨は同じ品種同士では交配しないため、一定数違う品種の梨を混ぜて植えている。

参加者からは「皆藤さんの梨が食べたい!」という声もあがりました。

皆藤梨園の主な販路は農協ですが、小美玉市内では空のえき そ・ら・らで購入が出来るほか、直販も行っています。販売専用の自社サイトは設けていないそうですが、毎年梨のシーズンには全国から直接連絡が来るのだそう。お客さんの中には、お中元として受け取り食べたことで皆藤梨園の梨のファンになり、自ら繰り返し購入を希望する人も多いのだとか。

梨はひとつひとつ手作業で選別。商品にならなかった梨は、皆藤家の愛犬のおやつになることも。

皆藤さんは話します。

「梨は贈答としてやりとりされることも多いため、お客さんと直接付き合う機会が沢山あって、『美味しかったのでまた注文したい』『送ったら好評だった』と言葉をもらえるんです。それがとても嬉しい仕事だなと思います」

インパクトがある見た目のトラックに参加者も興味津々。上部をカットしているため、園内を移動しやすく収穫にも便利。

誰もが気になる美味しい梨の見分け方は、きれいな丸であること、軸が茶色すぎないこと、ざらざらと触ると粉が残っているものが新鮮である証拠なのだそう。追熟する果実ではないため、購入したらすぐに食べるのがおすすめとのアドバイスもありました。

皆藤梨園
TEL:0299-48-3589
FAX:0299-48-1208

アトリエ プティ・ボア

アトリエ プティ・ボアの広い敷地にはいち面芝生の絨毯が広がり、気持ちのよい空間。山本さんが笑顔で迎えてくれた。

さつま芋畑を車で抜けると、突如目に入る三角屋根が特徴的な建物。扉を開けるとバウムクーヘンの甘く香ばしい香りが漂います。DAY1最後の目的地は、菓子工房にカフェ併設のアトリエ プティ・ボア(=小さな森の工房)。

アトリエ プティ・ボアは2018年にオープン。店内は「自然を感じながらお菓子とコーヒーを楽しんでもらう」というコンセプトの落ち着いた設えで、日々、地元の方やデートで遠方から訪れる人で賑わっています。

シックなデザインの店内。特徴的な天井のモニュメントはバウムクーヘンをイメージ。

経営母体は「ミスター・イトウ」でお馴染みのクッキーのイトウ製菓。実はイトウ製菓は、1968年から小美玉市に製造工場を置いており、市とのゆかりが深い企業。アトリエ プティ・ボアも長年工場を支えてくれた小美玉市への感謝の気持ちからつくられたのだとか。

「バウムクーヘンの焼成は、午前中に来店頂ければガラス越しに見学してもらえますよ」と山本さん。

「深い関わりがある小美玉市への感謝の気持ちがスタートなので、プティボアの商品には出来るだけ地元の食材を使っています。看板メニューのバウムクーヘンは小美玉市のコシヒカリを工房で製粉した米粉を使用しています。カフェでは小美玉市でとれる季節の果物を使用したメニューをお出ししています」そう話すのは、アトリエ プティ・ボア 広報の山本綾子さんです。

米粉を使ったお菓子は、小麦アレルギーのお客様にも好評。バウムクーヘンは、「米粉バウム みのり」と小麦粉と米粉をブレンドし黒糖をかけて焼き上げた「ガトー ア・ラ・ブロッシュ」がある。

「商品開発は食材選びからスタートし、様々な産地や種類の材料をスタッフで食べ比べてレシピを形にしています。スタッフ一同こだわって作っているため、特にバウムクーヘンや玄米サブレなど小美玉市の米粉をつかった商品は、米のでんぶん質が変化しないように、熱を発生しない製法で店内製粉するところから商品作りが始まっているんですよ」

また、商品の作り手として、山本さんが地元の食材を使うことでメリットに感じていることは「地元だからこそ、生産者の話を直接聞く機会があること」 鮮度がいいのはもちろん、作り手の工夫や苦労話も時に知ることができるため、商品の味や形だけでない付加価値をお客さまに伝えることが出来るのだそう。 「素材のことや作っている農家さんのお話をお客様にすると、とっても喜んでいただけるんです」

さらには、お客さまの声や生産者の声どちらも身近にあることが開発にとっても強みだそうで、地元の果物を使ったデザートやシェイクは、同じ商品でも毎年味をブラッシュアップして提供していると話します。

皆藤梨園の梨をつかったデザートも、期間限定でカフェメニューに登場予定。

アトリエ プティ・ボアの皆さんは、とても商品開発に積極的な人ばかりだそう。

「使って欲しい食材があったら、是非言ってくださいね。地元の意見や食材を取り入れながら、今後も商品を作ります」と語る山本さんでした。

アトリエ プティ・ボア
https://petitbois.co.jp/