オープンなコミュニケーションに飛び込むと、地域の楽しみ方が見えてきた
「“小美玉の家”では、日中は大抵、畑仕事やDIYで身体を動かしていて、夜になると疲れ切ってぐっすりと眠っています。ここは夜になると本当に静かで真っ暗になるため、睡眠の質が良いんです」
そう話すのは鵜木さん夫妻だ。平日は共に都内で働くふたりは、毎週金曜の夜になると自宅のある埼玉県八潮市から車を走らせ、週末を過ごす小美玉市へとやってくる。この2拠点生活を続けてもう6年ほどが経った。
「知らず知らずの間にたくさん運動して、食事には、自分たちで育てた野菜を食べているので、気づけば健康診断の数値も格段によくなっていました」と夫は笑う。
鵜木さん夫妻が小美玉市に古民家を購入したのは2015年。当時、週末になると自宅からつくばや栃木などに出かける事が日常となったため、北関東で遊ぶ際の拠点を県内に持とうとしたのがきっかけだった。小美玉の物件をインターネットで見つけたのは偶然だったのだという。
物件の購入後、ふたりは自宅のDIYを開始。古い畳をフローリングに張り替え、隙間を探しては塞いで回った。押し入れは解体して広いダイニングに。約半年かけて水回りも整備が終わり、さあ予定通りここから遊びに出かけようというタイミングで、ひと段落する間もなく、想定外に小美玉での畑仕事がはじまった。
妻は振り返る。
「当初、農業をするつもりはなかったのですが、近所の方が『畑仕事を手伝わないか』と声をかけてくれたんです。家庭菜園をイメージしてお受けしたら、それが一反歩(いったんぶ=約300坪)単位の話で驚きました(笑)」
今では季節を問わず、週末は専ら畑に通う生活だ。
鵜木さん夫妻の家があるのは、道路沿いの開かれた場所。生垣や塀は無く、ふたりが軒先で作業をしていれば家の前を通る人とは自然と目があう。地域の人たちは近くを通る度、夫妻を何かと気にかけ話しかけてくれる人も多かったそうだ。畑の件もそんなやり取りの中、家の修理が終わったならどうか、と声が掛かったらしい。
「僕らは当初、地域の人たちには週末だけやってくる変わった夫婦だと見られていたと思うんです。でも、近所の皆さんは『変な人がいるな』と遠巻きに見ることはせず、色々なハードルをすんなり飛び越えて、僕らに興味を持って話しかけてくれる人たちでした」と夫。
今では近所のゴミ拾いから農作業の手伝いまで当たり前のように声がかかる。食事に来ないかと電話で誘われたり、時には、家の前で近所の人が寄り合いをしていることも日常茶飯事だそうだ。夫妻はこのオープンな家や、ご近所との関係をとても気に入っているのだと言う。
悩みがあるのも面白い。小美玉レベルが上がってきました
「ここでは、私たちが困っていると、地域の人が先回りしてアドバイスをくれるので、運がよかったなと思うくらいなんです」
そう朗らかに話す妻もまた、飛び込んでゆくことに積極的だ。暮らしや農業の方法で分からないことがあれば、家の前を歩く人をつかまえては悩みを相談し、解決策を教えてもらっていたのだと言う。
夫も続ける。
「ここでの生活が順調なスタートをきれた理由は、住んでいる人になんでも聞けた事だと思っているんです。知識はインターネットで調べることはできますが、あくまで標準情報。DIYにしても野菜の育て方にしても『エリアのカスタム』がある。それは聞かなきゃわからない事ですから」
「私たちは、地域の人たちとは出身も違うし話す言葉も違う。普段の仕事も、職場も違いますから、多少の感覚の違いは当たり前です」
ふたりは、自分達に明らかな背景の違いがある事が、逆にこの場所での友好な関係に繋がったのかもしれないと分析しているそうだ。
「小美玉の暮らしにも、困ったことはいっぱいありましたよ、でもその度に『これでまた小美玉レベルがあがっちゃったな』と言って楽しんでいます」
慣れないことや戸惑うことは今でもある。それでも夫妻は、そう言うと、顔を見合わせていたずらっぽく笑った。
2拠点生活歴は約6年。最初は小さな手鋸(のこ)一本からスタートしたというDIYは、今では物置を建てられるレベルになり、育てた野菜は市内の直売所に卸すまでになった。もはやこの場所が週末に泊まるための拠点だとは、夫妻も地域の住人も思っていない。ここにあるのはふたりの「生活」だ。
「都会でする平日のオフィスワークと、小美玉での週末の暮らし、この2つがあるから生活にメリハリがある。どちらの生活にも大変な事はあるけれど、違う生活の違う悩みがある事が、僕らにとってはリフレッシュになっているのでしょうね。ここでの生活があるから平日も頑張ろうと思えるんです」
平日の暮らしと週末の暮らし、どちらもあるから面白い。「2拠点生活の面白さ」を満喫する夫妻の小美玉暮らしはこれからも続く。