働くなら、土に触れる仕事が良い
トキワ園芸農業協同組合(以下トキワ園芸)は、植物の苗から、植木や盆栽、観葉植物に、鉢植え、切花までを取り扱う大規模な園芸センターだ。小美玉市内外の園芸ファンたちに親しまれ、25,000平米を超える広い敷地では、常時1万種を超える植物が迎えてくれる。
安ケ平(やすがひら)さんは、そんなトキワ園芸に2021年の春に入社した新入社員だ。出身は岩手県。県外から新卒で入社するのは安ケ平さんが初になる。
地元は、岩手県北部の街で青森県との県境。冬は雪に覆われる畑と木々に囲まれた静かな場所で、両親が会社勤めの傍ら畑で作物を育てる様子をみて育った。
安ケ平さんも高校では総合学科に入学し農業を専攻。授業では主に野菜づくりや寄せ植えを学んだ。文化祭で販売するシクラメンを300鉢ほど育てるリーダーを任された事は、学生時代の思い出のひとつだ。
振り返れば、幼少期からいつも土が身近にあったという。将来の仕事に「園芸」を選んだのも自然の流れだったそうだ。
「子供の頃から、将来は花を扱う仕事がしたいと思っていました。切花やアレンジメントを扱う街のお花屋さんに憧れもあったのですが、農業が身近だったのもあり、土を介した植物との関わり方のほうが、私にはより親しみが持てるようです」
意向を聞いた高校の先生からトキワ園芸を紹介されると、鉢ものから切花、植木まで幅広く扱う規模の大きさに惹かれて就職を決めた。安ケ平さんの両親は、卒業後は一人暮らしがしたいという娘の希望は知っていたものの、就職場所に茨城を選んだことは想定外だったらしい。
「面接の帰り道、付き添ってくれた両親も流石に小美玉市は遠いと思ったらしく『本当にここで就職するつもりなのか』と止められました。その後は車の中で大げんかです。ただ、もうひとつの就職先候補が静岡県だったこともあり、最終的には小美玉市に来ることを認めてもらう事ができました(笑)」
一人暮らしももうすぐ1年。やりたいことも増えてきた
晴れて19歳の春に、憧れだった植物に囲まれた仕事と、一人暮らしをスタートさせた安ケ平さん。就職と共にはじまった小美玉市での暮らしはまもなく1年となる。
仕事では、昨年の12月に研修期間を終え「花木園芸部門」に配属されたばかり。覚えることは山積みだ。
「今は、鉢植えや苗木の水やりに値札つけ、気温に応じて温室への出し入れなど、基本の植物管理を教えてもらっています。まだ先輩にお願いされたことをしているだけなので、もっと頑張らないと」と控えめに話す。
それでも、寄せ植えづくりやラッピングを任されることも増え、仕事にやりがいを感じている。昨年、初のクリスマスシーズンの繁忙期を経験した安ケ平さんは、今は、来たる5月の母の日商戦に向けて「今後、フラワーアレンジやラッピングで戦力になれるようになりたい」と意気込んだ。
小美玉で就職してからの小さな楽しみを聞くと、「実は私、虫がとても好きで…」とはにかんだ。仕事をしている際に、土や葉の間から顔を出す虫を見つける事がとても嬉しいのだそう。まだまだ新しい生活の心細さはあるだろうが、新しい暮らしの中にも楽しみを見つけ、この環境を満喫しているようだ。
現在、困った事があれば、仕事に限らず同僚たちが助けてくれると安ケ平さんは話す。特に先輩たちは何かと彼女を気にかけてくれるようで、職場の至るところで会うたび言葉を交わしてくれる。
仕事の休み時間になると安ヶ平さんのまわりには、美味しい食材が手に入るスーパーの場所から、新しいカフェの話、市内のイベント予定など、話題の情報が自然と集まってくると言う。
やってきた当初は右も左も分からなかった小美玉市の中に、最近では行きつけのお店や、行ってみたい場所、やりたい事が少しずつ増えてきたという安ケ平さん。運転に慣れないこともあり、まだまだ行動範囲に限りはあるが、これからどんどん冒険がしてみたいと希望を話す。小美玉の暮らしは、はじまったばかりだ。